katigyoku




痛快!相場あり






  登場人物の紹介
 藤村光一 主人公
 中谷課長  人事部
 古田部長  営業統括部長
 秋山副長  本店第一営業部責任者
 渡田係長  本店第一営業部第一ブロック長
 畑中主任  本店第一営業部第一ブロック課員
 萩中副主任 本店第一営業部第一ブロック課員
 畠山     本店第二営業部第一ブロック課員の同期生
 高木     本店第二営業部第二ブロック課員の同期生
 みやび    古田部長の???
 志乃     藤村光一の???

 第一章
 19才と10ヶ月、藤村光一が商品取引にのめり込むきっかけとなった年齢で
 ある。光一は旭川市という北海道のへそとも言えるど真ん中で生まれ父は警
 察勤めの厳格な家庭に生活していた、小学校の時分、父の転勤で4度ほど
 変わり、やっと真の友人が出来たかと思うと転校となり、その度つらい
 別れを繰り返していた、家族は両親が再婚でお互い連れ子があった、
 父はふたり母はひとりの子があり年のひらきは丁度、7歳間隔で一番上の
 兄とは21歳、2番目の姉とは14歳、3番目の姉と7歳とかなり年の隔たりが
 あった。しかしながら小さいということで兄弟からは可愛がられていた
 ことはいうまでもないが兄:2番目の姉、3番目の姉の対立は両親を
 巻き込み卑劣なものであった。
 また両親の夫婦喧嘩も恒例行事のようにほとんど毎週あり、
 笑いのある、ほのぼのと幸せに満ちた家庭とは孤立無縁のものであった。
 小学校6年の時に両親の念願なるマイホ-ムを札幌から当時4番目の駅にあ
 る東篠路に新築し、ようやく光一も転校の悲しみを味わうこともなくなった。
 中学時代は4人仲間でバンドを組み、そのころ流行っていた、ガロ、チュウリッ
 プ、オフコ−スなどのフォ-クを歌い、ロックではキッス、エアロスミス、
 ディ-プパ-プル、「ホテル、カリフォルニア」でおなじみのイ-グルスなどを
 真似ていた。
 しかし中学3年のとき大きな喧嘩があり2:1ひとり中立といった状態に陥り
 光一は3人とは別れランクのよい高校を決心し、先生の反対も押し切り見栄を
 張った行動にでた、果たして結果はと言うと、たまげた事に合格当然といった
 者達を尻目に見事合格を果たしてしまったのだ、報告に担任の所へ行くと驚
 いたのは光一より担任であることは想像できるだろう。
 高校生活は酒の万引きが発覚し率先垂範して二歩刈にし停学や退学を免れ
 た以外にさしたる事件もなく無事卒業したものだ。
 高校卒業後、始めた事は北海道では有名な「みよしの餃子」で夜間バイト  
 (20:00〜1:00)
 昼間は安い海外旅行のツア-が1ヶ月に一度企画され、どうせ行くなら英語を
 マスタ-しよう、が、うたい文句の英語教材販売会社「エ-ル・インタ-ナショナル」
 仕事内容はというと、当時名簿屋などなかったので市役所や役場などに出
 かけてゆき、住民表台帳を閲覧し20歳〜35歳位の独身者と親の名前を
 書き抜いて会社に戻る、次にする事は親の名前で自宅の電話番号を調べ
 電話をする、ほとんどの場合は息子が勤めているので
 勤務先の電話番号を友達を装って聞き出すのである、そこへアポをするのだ
 その内容は、安い海外旅行の話を強調しメンバ-制になっているので会員に
 ならなければツア-に参加出来ない事を話した上で面談の約束をとる。(対外
 の場合、あらかじめ喫茶店を調べておきそこでの面談となる)
 次にその内容だ、まずは会社の紹介をさらりと済ませ、おもむろにハワイ5泊
 100000円、ヨ-ロッパ8泊200000円のパンフレットを強調し相手の手に渡す

 南国のビ-チの話をまくしたて頭の中が海外に飛んでいる頃合をみはかり、
 旅行に行くには世界共通の英語を片言でもマスタ-しておくとなお更、便利で
 ある事を告げ、そのころには傍らに教材のブックがあり、かるく開いて見せ
 カセットを聞きながら勉強すると小学生でもいつのまにか喋る事ができるように
 なっている、実に良く出来た構成になっているのだと自分ながらに感動して
 みせ、海外ツア-に2,3度行くと旅費が一般のものと比べ安いので元が
 取れるとまたまた強調の一手。40分もすると1ヶ月3000円、ボ-ナス時
 40000円加算の割賦販売契約書にサインを頂く事になる。ちなみに報酬は
 一本の契約348000円の10%34800円で3本目以降のコミッションは15%
 と跳ね上がる。社員は90%が女性であり年下の光一は常に性の対象にされ
 中には成績の良いセ-ルスウ-マンになると契約1本をプレゼントされ夜の世話
 までしてくれる者。トイレに行くと女性用トイレから手招きされその行為に及ぶ
 事などあり不自由ない生活を送っていた。ある日、夜間バイトの「みよしの餃
 子」店長に正社員としてやってみないかと持ちかけられた、若い光一は自分
 が年を取る事など考えたこともなかったが将来のことを考え始めるに至った日
 である。
 「福利厚生、賞与」この言葉は19歳の心には何か凄いものに思え男として
 社会に打って出て「成功」を収めている自分の姿が日に日に成長し、ついに
 決心するに至ったものである。
 北海道札幌と言えども求人誌は東京の10分の1位の薄さであり、中身も
 それと同じく、くされたもので、お水関係、清掃、ちり紙交換のアルバイト
 などが永遠とつづくものだった。そもそも北海道で中途の職を探そうとすれば、
 北海道新聞の求人欄を血眼で探すのが一番であり、それを理解した光一も
 新聞を読むことなど皆無であったが、自然と目をとうすようになっていた。
 そんなある日の記事に「求む若い力、給料、北海道で5本の指に入っている
 会社、ム-ン・ワ-ルド貿易」の広告が飛び込んできた。年齢20歳以上、学歴
 不問、やる気のある方、給料手取り18万円保証これが全ての条件だ。
 あと2ヶ月で20歳、光一は迷うことなく電話を取ってみた。
 「はい!ム-ン・ワ-ルド貿易」、「もしもし、ム-ン・ワ-ルド貿易さんですか?」
 「はい!そうですが!どちらさんですか?」、「新聞見て電話したのですが」、
 「少々お待ちください、今、人事の者と換わりますので!」、「はい!」
 「もしもし、お電話換わりました、人事の中谷ですが。」これが全ての始まり。
 お名前は?藤村光一と申します。年齢は?あと2ヶ月で20歳になります。
 だめだめ20歳以上じゃないと正社員として雇えないんだ。それじゃ、それまで
 アルバイトでもいいのですが、やる気だけはあります。ん〜〜ちょっと待っ
 て。。
 2〜3分待たされた。。。。ごめん、ごめん、じゃ〜明日4時に来れるかな?
 行きます。あっそう。じゃ4時に待ってます。ガチャ!電話をたたきつけるように
 切るられた。違うものだ、これが会社なのだ、実に忙しく、俺は注目されてない
 アルバイトの面接と社会人としての面接は違う、断られたじゃないか、危ない
 ところだった、くわばら、くわばら。でも「待ってます」とは言っていってくれた、
 チャンスはあるぞ、そう光一は勝手気ままに解釈し,後はどうやったら、
 そこに入れるか、それを考えたが思うようにアイデアがうかばず、
 考えても無駄だ、「出たとこ勝負」よと、割り切り、あっさり考える事を停止し
 年上の女性や友人に電話したり、テレビを見ていつもの様に時間が
 すぎさった。気楽な夜は明け翌朝。いよいよ喜劇のはじまり、はじまり!
 朝が明け午後2時半までいつものように時間が過ぎた。さてそろそろ準備す
 るか。何着て行こうかな?タンスをのぞいたが背広はなくブレザ-だけである。
 これにするか、手に取ったものはモスグリ-ンのブレザ-、下は黒のスラックス
 Yシャツはグレ-のもの、ネクタイは赤これでいいだろう、勝手にきめこんで1時
 間ほどテレビを見て。そろそろ行く時間だなと決心したのが3時半だった
 用意したものを着て家を出たのは5分後、髪をドライヤ-などで整える事は
 していない。だがその髪はというと。ちょうどそのころ「嗚呼、花の応援団」
 が流行っており「やっちゃんパ-マ」なるものに人気があり、光一も例外では
 なかった、かけたのが3ヶ月前である。
 想像していただきたい、くりくりのパ-マを放置して3ヶ月経過すると、どうなる
 か?そのとうりである、ディスコジョッキ-のアフロ-ヘア-そのもののである。
 別段気にもとめてはいなかったのだ。
 北海道は電車が無く、ディ-ゼル機関で走る汽車なのだが札幌行きの3時40
 分に乗り込み着いたのが4時5分、ム-ン・ワ-ルド貿易までは15分かかった
 着いた時刻が4時20分。そう約束を20分もオ-バ-していたのだ。
 エレベ-タ-に乗り込むと「ギ-、ゴトン、シュル、シュル、シュル、ガン、ギ-、ギ
 -」と音がし速度も歩いたほうが速いのではないかと思われるほど
 古ぼけていた降りると、いきなりドアがあり、その向こうから、かんだかい声で
 怒鳴り声がした。
 これが会社というものなのだと勝手に決めつけ、気合と共にドアを開け、ありっ
 だけの声でさけんだ。
 失礼します!あまりの大声に誰もが振り向いたがその目は異様なものを見
 る眼差しである、少し間があり、奥に居た女子社員が小走りに駆け寄ってきた
 「かわいい!なんて、かわいいんだ。」こんな人が働いているのか、どんな事
 があっても入社するぞと一瞬に闘志をみなぎらせ相手が尋ねる前に声が出て
 いた。「昨日、面接の件でお電話いたしました。藤村ですが、道に迷い遅れて
 しまいました」(迷うはずは決してない、一等地だ、ビルは古いが札幌駅を背に
 真っ直ぐ駅前通りを歩き大通り公園につきあたった所の角にあり看板も目立
 つているのだから。
 札幌に住み慣れた者なら簡単な略図でもすぐに思いつく、実に良いところなのだ。
 その事を察してか女子社員はふきだしそうな顔つきで、少々お待ちください
 と応対し奥のほうへ戻っていった、幾分、待たされ中谷氏がやってきた。
 中谷です。きのう電話くれた藤村君?どうぞこちらへと案内された所は応接
 ではなく人事部の中谷氏の座っている席の隣であり、営業部が一望できる
 ところである。だされた椅子に相手より先に腰掛けた。
 待ってたけど、来ないかと思ったよ。はい、すいません、迷いました。
 君、札幌は短いの?いえ、8年目になります。道に迷ったんじゃなく、来るか
 来ないか、迷ったんだろう?ん〜〜〜それも有ります。まあ〜いいや
 履歴書見せて、光一が履歴書を渡し中谷はさらりと目をとうし質問してきた。
 なぜこの高校行って大学行かなかったの?途中までそう思ってましたが
 早く社会に出てみたかったものですから。で、どうだった、今までの会社は?
 楽しく営業してましたが将来が不安になりまして、ちゃんとした会社に入ろうと
 思いました。ちゃんとした会社ってどんな会社がいいと思ったの。それは〜〜
 社会保険があり、ボ-ナスのある会社です。なるほど、今、君営業やってたと
 言ったけど、成績はどうだった?え〜と、けっこう満足してました。満足って
 どの位、給料あったの?給料は決まっていません。えっ!給料制じゃない
 の?そうです、契約取れると、次の週にコミッションが貰えましたので。
 コミッションて、大変だったでしょ?あまり考えた事なかったです。そうなの。
 時間ないので我社の仕事内容をはなしますね。我々の仕事はね、
 簡単に言うと世界から輸入している食糧品の一部の品物の価値をお客に提供
 し、お客様に満足して頂く様にする仕事なんだ。
 「思ったとうりだ、貿易をしている会社なんだ、そしたら、俺は世界を飛び回る
 仕事をする事になるな」 勝手に光一が想像していると、中谷がつづけた
 やりがいがあり、お客様には喜んで頂ける仕事だし、君は営業をしていたん
 だから、是非とも、その営業力を生かしてみないかい?「福利厚生」もきちっと
 してるし、ボ-ナスも年3回あるんだ。
 福利厚生ってなんかすごいものなんだろう、ボ-ナスも3回あるんだ、女も綺麗
 だし、こりゃ、絶対に入りたいな〜〜〜またもや思いにふけっていると。
 簡単な数学と漢字のテストにをさせてもらいます、中谷が言った。
 出されたものは分数の足し算、引き算、漢字の書き取り、読み方など
 小学校程度の問題であまりにも簡単だったので15分位でできあがり中谷に
 提出すると、早いね、と驚いていたが、逆に驚いたのは光一のほうで、これが
 社会人になるためのテストだとはとうてい思えなかったのだ
 全問正解だね、じゃ、年齢の件もあるので合否の結果は一週間後に連絡しま
 すので今日はこれで終わりです。お疲れさま!
 「なん〜だ、今日分からないんだ、それにしても馬鹿にした問題だったな、
 あの程度の問題出しといて合否にもったいつけるなよな〜。しかたないか。」
 こう思いながら、会社を出、する事もなく、真直ぐ帰宅すると母親が居り「光一
 さっき、ム-ン・ワ-ルドの中谷さんて言う人から電話あって合格だから、明日
 から来るようにって言ってたわよ、どっか面接でも行ってたの?」、
 「え!うそでしょ、おかしいな??」「何がおかしいの」「だって一週間後に連絡
 するって言ってたのに」「いいじゃない、で、どんな会社なの」「貿易会社だよ」
 「そんな会社よく雇ってくれたね」「気合と根性さえあればいいみたいだよ」
 「あんた、英語しゃべれるの?」「いや、入ってから勉強すれば、直ぐに覚える
 さ」ム-ン・ワ-ルドの仕事内容についてはこの程度の理解度しかなく、
 商品取引の仕事だとは、よもや考えてもいなかったのである。そして出社の日
 がやってきた。
 指示があった時刻は8時だったので10分前に例のエレベ-タ-のドアが開い
 た、すると営業の人たちと思われる大声というか叫び声のような会話の「音」
 がいきなり耳に「振動」を与えた、なんだろう!営業部のドアの前で2〜3秒
 躊躇していると、いきなり背中を叩かれた、びっくりして振り向くと真四角の顔
 に金縁のメガネ、背丈は170センチ位、上半身はガッシリとしているが下半身
 はスマ-トで逆三角形の40〜45歳ぐらいの人物が立っていた。
 「今日からかね。」「はっ・・はい!」「じゃ〜早く入りなさい、真直ぐ人事の中
 谷の所へ行くといい」「わかりました」ここまで来て帰られてはたまったもので
 はないといった感じで背中に乗せられた手がドアの方に向かって圧力をかけて
 くる、促されるままに中に飛び込んだ、全員が総立ちとなり電話に向かって
 叫んでいる、誰も気に留める者などいない、必死の形相である、これは取引先
 のお客様に何か売りこんでいるのだな、何も知らない光一でも一瞬で理解でき
 た、「買いです、今が買いです」「大変なんです」「100買い、100買い、100
 買い!」昔、二条市場という(東京のアメ横を想像して欲しい)市場の八百屋
 でバイトしたことがあり、その時のゴ-ルデンタイム(午後4時〜5時半)の威勢
 のよい呼び込みを想像しながら中谷の方へ歩いた、その間、先ほどの人物は
 見張り役のように引率し、囚人引渡しのように中谷に手渡らされた。
 「部長ありがとうございます。」(部長・・・・!)「おはよう!今日は迷うことな
 かったみたいだね。」「ええ」「あと二人来るからここに掛けて待ってて」ほどなく
 畠山という(ひょろひょろと)スマ-トであまいマスクの者と高木という「でぶ」と
 はっきり言ってよい者がやってきて、三人そろったところで、すぐさま、それぞ
 れの配属される部に連れて行かれ紹介された。
 営業部の総括責任者は先ほどの逆三角形の人物、古田部長、光一の部の
 責任者は秋山副長、課の責任者は渡田係長、その下に、畑中主任、萩中副
 主任といった構成メンバ-の部署である。
 電話を持ちながら軽い会釈で挨拶し、名刺を見ながら次から次へとダイヤル
 を回す、流れ作業のようだ、話かけられることもなく、つっ立っている光一に
 畑中が何でもいいから声をだせ、と、叫ぶ、訳がわからぬまま、
 「100買い、50買い、100買い、50買い、」とオウムのように連発している
 と、奥の中央に位置する席に座っている古田が「藤村!藤村!」と呼んでいる。
 席の前まで行くと、「お前のその髪は何だ!すぐ切って来い、金あるか?」
 「ありません」「これで切って来い」3000円を手渡して、「すぐ、行け!」
 と一方的だった、言われるままに床屋へ行き3000円を払い500円のお釣り
 をもらい、会社に帰ると先ほどとはうって変わり幾分、静かになっていたが
 時より「大変だ!」との声も聞かれたがすぐに静まり返り、全員がぐったりと
 休みになった。お釣りの500円を古田部長の所へ持って行くと、「とっとけ」と
 一言いわれ、すごすごと席に戻る。秋山副長が課の所まで光一の履歴書を
 手にやってきた、「改めて紹介しとく、今日から入社した藤村君だ、もうすぐ20
 才だから、よく教育してやってくれ」「藤村です、よろしくお願いします」「藤村君
 は免許持ってるけど、車もってるの?」尋ねてきたのは渡田係長である、
 「はい、持ってます」「じゃ、運転は自信があるほうかな?」自信などなかったが
 「はい、自信あります」と、すまし顔で光一が答えた。「じゃ、副長、藤村運転手
 で行ってきますが、いいですか?」渡田が秋山を振り返り尋ねていた。
 「まだ今、入ったばかりで、どんな運転するか分からんでしょう。」そのとおりで
 ある、しかしその時古田が言った「ど〜れ、俺が一緒に行って藤村の運転みて
 やる。」「部長が一緒に行かれなくてもだいじょうぶですよ」やりとりをしている
 入ったばかりと言うのに部長や係長といっしょに出るのは、まるで免許の試験
 のようだな、と、ぼんやり考えていると、「沼田町まで行くから、すぐ用意しな」
 萩中が声をかけてきた、用意しなと言っても持ち物は何も無い、そのままいつ
 でもでかけられるので、気持ちだけ準備して1時間ほど固まっていると古田が
 今まで持っていた電話を置き、「ほれ!行くよ、時間ないでしょ、さっさとしな」
 号令をかける、今や遅しと待っていたのは渡田のほうであったようだ、サッと
 立ち上がり「出るぞ、藤村、もたもたするな。」と、いらいらした声で叫んだ。
 車に乗り込む、光一は運転手、助手席には古田、後部に渡田、偉い人が
 助手席なんて、ちょっと変だな、と思ったが古田は後部に乗ると車に酔う体質
 なのだと言うことをだいぶ後に知る事になった。目的地までは古田が当時流
 行った「泳げたいやきくん」の「たいやき」や「饅頭」などを食べきれないほど買
 いこみ、それを光一や渡田に勧めるが、3〜4匹分の餡子など到底、食べられ
 るものではない、だが古田は12匹あったうち、たいやき君8匹と饅頭3個をたいら
 げ、けろりとしていた。驚くほどの「甘党」である。
 1時間半位で訪問先に到着し古田が言った「渡田、簡単に済ませるから俺に
 まかせろ」「わかりました、でわ、横に座っています」車を出て40分位で戻り
 渡田が驚いていた、「部長、簡単に決まりましたね」「当たり前でしょ、今日、
 用事あるから、そんなに時間かかると困るんだ」「えっ、どちらか行かれるの
 ですか?」「黙って、ついてくれば、分かるよ、それより、渡田は金持ってる?」
 「ええ、10万はありますが」「そうか、なら安心だ」「どちら行くのですか?」
 「だから、ついてくればいいんですよ!」途中ゆっくりと昼食をとり午後4時過ぎ
 会社近くに戻ったのだが、そのままススキノのお客様の所へ行くと言われ、駅
 前通りをススキノ方面に走らせ、ススキノ「0番地」で車を止めるように指示が
 でた。「藤村はここで待っていろ、ここの客はちょっと、やっかいなんで1時間半位
 かかるはずだから車の中で寝ていてもいいからな。ほれ、渡田も行くよ、早く
 降りなさい!」 なるほどこのあたりのお客様なら、お金持ちの人が多いだろう
 な、貿易って、どんな品をこんな場所の人に売るのだろう、酒でも売るんだろう
 か、やっかいと言ってたけど、やくざ関係のお客様なのだろうか、部長が仕事
 で入っているのに、「寝てもいい」と言ってたけど寝るわけ、いかないだろうし、
 光一なりに色々と想像し、考えていたが初出社と車の運転が手伝い、何時し
 か眠りに落ちていた。zzzz・・・・
 きっかり90分後、窓をコンコンと叩く音がし光一を夢の中から引き戻した、
 慌ててシ-トを起し、ドアのロックを解除すると、同時に古田が乗り込んできた
 「ごめん、ごめん、待たせたな、」 なんだろう、この石鹸みたいな甘い香りは?
 10分ほど遅れて渡田も戻ってきた。やはり同じ香りをしている、でも一緒に
 行ったはずなのに、なぜ別れて戻ってきたのだろう、そういえばカバンも持って
 いなかったではないか、不思議であったが入社したての光一には質問する
 ことなどできるはずはなかった。
 「渡田係長!どうだったかね」「なかなかな、好い人でした」「よかったかね」
 「古田部長、また連れてきてください」「渡田も好きだね」こんな会話があり
 新しいお客様の所へ来たようだが、臭いだけがどうにも腑に落ちない、
 女性のお客さんに輸入品の販売でもしてたんだろうか?気になって、気にな
 ってたまらない光一に古田が話しかけてきた、「藤村君もいつか渡田係長に
 連れて来てもらいなさい、で、これから会社には戻らず食事に行くから、どこか
 車を駐車できる所に入れてくれ!」
 すし屋に入り特上寿司をいただきながら、訳の分からぬ「仕切り、追証、純増
 予定」などの用語の入り混じった話に聞き入り、何も分からぬが相鎚だけは
 打ちながらも、ひたすらビ-ルを頂いた。次に行くとの事で古田と渡田の後ろに
 従うと、ひときわネオンが輝き昼間と錯覚するほどの建物のが見えてきた。
 入り口にはホテルを思わせる40代のタキシ-ドをきた品のいい案内係が数名
 いるパラダイス、夢の入り口「キャバレ-ミカド」である、まさかあそこに連れて
 行かれるはずなど無いと思うが!だとしたら感激!でもどうせ通り過ぎるの
 だろう。
 予想ははずれた、案内係が、笑みを浮かべて古田の傍らにやって来た!!
 「ミ、ミ、ミ、ミカド」黄金のパラダイス「キャバレ-ミカド」だ!
 体育館二つ位の広さで、テ-ブルがステ-ジを囲むように配置され数える事を
 諦めさせるほど並んでいる。案内されたのは二階で壁に間仕切られステ-ジが
 一望できる個室である、なにが起こるのだろう、どんなお姉さん達が来るのだ
 ろう、初めての大人の世界に期待と不安で動揺し、固まっていた、3〜4分すると
 きらびやかな衣装のお姉さんが四人もやって来た。
 「あ〜ら、古さん、お久しぶり、忙しかったの、浮気なんかして、どこか違う所に
 行ってるて、噂聞いたわよ〜」「誰からよ?」「秘密!誰だっていいじゃない」
 「それより渡田ちゃんは何度かお会いしてるけど、そちらのお兄さんは初めて
 ね!」「若そう、食べたら、美味しそうじゃない!」「みやびです、よろしくね」
 「紹介するわ あすか、志乃、明美、です、宜しくね!」身?も心もいっぺんに
 こちこちになっている光一の横には志乃がついた、年のころは27〜30歳位
 であろう、卵型の輪郭に優しい目元、細く伸びたまつ毛、やさしそうで、顔立ち、
 今で言うと、水野まき、の様な感じのひとである。「はじめまして、志乃です、
 なんとお呼びしたらいいのかしら?」「ふ、藤村光一!二十歳です!」「あら、
 若いのね」「す、すいません」「ん〜ん、若のにここに来れるなんて、将来、有
 望て事なのね」古田が口を挟んできた「そいつは今日入社したんだ!」
 「古さんにそんなに早く気に入られるなんて、こんなに若い子、連れて来るの初め
 てよね」みやびである。「こいつ、面接にとんでもない頭して来たうえに19歳よ
 親爺が警察官だから息子はふたつにひとつ、いいか、悪いかはっきりしてる
 はずだよ!俺はいい方と賭けてみた」「感謝しな、お前を採用したのは古田
 部長なんだから、人事は反対したみたいだぞ」渡田が間髪いれず相槌をいれ
 る「でも古さん、賭けでこの男(こ)入社させちゃうなんて」「俺はな、この歳で
 部長なんだ、客を見る目も、人材見るのもいっしょよ!」「なるほどね、じゃ
 志乃、この男(こ)に粗相のないようにね、手をつけちゃだめよ!」4〜5分
 光一の話題をした後、個人個人思いの世界に入っていった。
 「光一と志乃も例外ではない」
 「光一さんはどちらのご出身?」「旭川です」30秒ほど沈黙がある、それは
 光一が初めての経験にコチコチに固まり、椅子に座ったお人形になっている
 せいである、「あら、私の両親今、旭川に住んでるのよ」「そうなんだ、でも今は
 札幌だよ」実にそっけない返答だがそれを察して志乃が続ける「先ほど、上司
 の方がお父様、警察と言ってらしたけど、私の父も警察官なのよ!」「うそだろ!で、
 どうして志乃さんは・・・・?」「こんな仕事してるかって、そんなの、どうで
 もいいっじゃない」「俺、補導2回された」「私も2回」「でも、どうして?」「あなた
 が良く分かってるでしょ」「なんとなくね」「やっぱり、睨んでた?」「そう、睨んでた、
 口も利かないね」段々とアルコールが光一にまわり、本能が芽生え初めていた、
 年上の女は得意中の得意である、仕事も人には負けたくない、女も必
 ず落とす、やると決めたら、必ずやる、それが信念であった、いったん、はじけると、
 後の会話は違和感のないものでスム-ズにはこんでいた。
 「藤村、その女(こ)は無理だ」古田である「みんな!アタックするが、誰も
 相手にせん!いい男がいるんだ、それも金持ちのな!」そんな事はどうでも
 よくなっていた、むしろそんな言葉を聞くとなおさら、ファイトするにいたっていた
 「僕じゃ、つりあいがとれませんか?」「違う、みんなアタックするがデートすら
 できん」「先輩たち、本気じゃないからですよ!」今日入社したばかりだが
 出来ないと言われると、燃える、言った人にもそうだが、その対象人物にも炎
 がふつふつと燃えあがる、「そこまで言うなら、この女、志乃と必ずデートするぞ!」
 決心をすると、はちきれる、それが光一の性格だった。
 しかし、この会話が巧妙に古田がしかけていた事に、藤村は知る由も無かった。

 楽しい時間は夢の如く過ぎ去り、古田に5000円を渡され、明朝7時出社を
 告げられた、深夜2:00である。
 翌朝札幌市内と言えども汽車の本数は多くなく結局6時45分に会社に着く
 と萩中副主任が早くも出社していた。「おはよう、早いな」「お早うございます、
 萩中副主任のはうが早いじゃないですか」「ま〜な、今日は新規が切れそう
 だし、藤村君が入ったから、何か教えてやらなきゃな」「ありがとうございます、
 それで、僕、何したらいいですか?」「何をすればよろしいでしょうか、と、言う
 んだよ、これからは敬語勉強しろよ」「はい分かりました、何をすればよろしい
 でしょうか」「まず、電話用と机用の雑巾で、うちの部の人の机と電話を全て拭
 いてくれ」(藤村は本店第一営業部に配属されていた)全て終わり、隣の部の
 机も拭こうとすると、萩中が言う「そっちはやらなくていい!部が違うから。
 それよりこれから、古田部長の机と電話は誰にも負けるなよ!」
 「誰にもって誰にですか?」「馬鹿だな、お前の同期、畠山と高木にだよ」
 萩中は理由を教えてはくれなかったが部長古田は週に一度位、鬼のように早く
 出社し社員の監視をするのである。
 「終わったら、うちの部の人が出社する度に立って大きな声で
 挨拶し、お茶をいれてくれ」「えっ、女の人がやるんじゃないのですか?」「女子
 社員は営業より遅いんだ」会話最中に古田が入って来た、「部長、お早うござ
 います、昨日はごちそうさまでした」指示されたとうりにやったつもりである。
 「おはよう!挨拶はいいが、最後の言葉は大声で言っちゃ、いかんでしょ!」
 萩中がにやにやしている。お茶を入れて持って行くと古田が小声で、「いい
 か、藤村、あんな事言っちゃ、お前を飲みに連れてった事皆にバレバレでしょ、
 個人的な事は小さな声でかまわん、えこひいきしてるみたいに思われると
 かなわんからな、で、どうだった、約束には成功したか?」「はい、どうにか」
 「そうか、よくやった、また連れていくから頑張れ!」出社3人目が部長であった
 それも7時10分である。それからの10分間には部の上司達がなだれこみ
 7時20分には本店営業部の人間全てが出社していた、そんな中で同期の畠
 山と高木は第二営業部の副部長の机の前で早くもどやされていた、しきりに
 藤村を指差しながら。
 椅子につくと周りはもう騒然としている。萩中のコーチがまた始まった
 「つまらない事でも心を込めてやることは大切なことだからな、じゃ、これから
 ロールプレイするから、分らない事は、ばんばん質問しろよ」「ロールプレイて
 何ですか?」「お客さんに会う前の練習さ」7時50分までの20分で利益計算
 までいっていたが、頃合を見た渡田係長の号令が入る、「プッシュ練習!!」
 アプローチブックや藁半紙をそっちのけで皆が電話を取り始めた。
 「プッシュ練習て何???」
 マンツ-マンで一人は聞き、もう一方はその日の材料をメモした紙を片手に
 必死の形相で架空のお客様を相手に練習をしている、大富豪の投資家
 ハント一族がアメリカ市場で大豆を買い始めた!(当時ハント一族と言うと商品
 市場にはかなりの影響力を持っていたが、のちに銀の先物、現物、買占めで
 見かねたアメリカ政府とペルー政府の策略による相場の暴落で膨大な負債
 を負い、尚且つ起訴され再起不能となり一族離散、消滅した)だから今の安い
 価格で買いましょう・・・・うんぬん・・・聞いていると買ったほうが良さそうな感じ
 になり、なるほど、と、感動していると、「プッシュ止めー」の号令が10分経過
 した8時きっかりに今度は秋山副長から入った、今までの騒音が嘘の様に静
 まり返る。「よ〜うし、気合いれるぞ!」誰かがさけんだ。「充分気合、入ってる
 のに、どんな気合入れるわけ?」
 本店第一営業部と本店第二営業部の部員がそれぞれ別れて円陣をくみ
 中腰になった、光一も同じ姿勢をすると、萩中副主任が声を出した「私がやり
 ます!・・・○月○日今日は絶対にー新規切るぞ!おぉー!(周りの人間)必
 ずやるぞー!おぉー!切って酒飲んで!遊びまくるぞー!おぉ!立会いよー
 ーい!やるぞ!おお!」・・・凄い!この時点で疲れきっていそうだが萩中が
 勢いに乗じて直ぐに電話を取った、練習以上の迫力で勧めるが相手に切られ
 萩中も電話を叩ききる、「くそ〜」
 すかさず二番手、畑中主任が電話を持った。かなり
 ソフトな口調で状況を伝えている、7〜8分も話したろうか、なにやら相手の
 住所を聞いているようだ、「利尻町鬼脇うんぬん、有難う御座います、一生懸
 命やりますのでまかせてください!それでこれからまいりますと7時位には
 お伺いできますので宜しくお願い致します!本日は有難う御座いました」・・・
 「よ〜し注文貰ったか!俺もいっしょにいくぞ!」
 秋山副長である、「古田部長!畑中がやりましたので、私もいっしょに行って
 きます、藤村も連れて行っていいでしょうか?」 古田「藤村は若いが運転は
 うまいようだから、いってこい!何枚だ?」 秋山「30枚です!畑中、藤村に
 スタンド教えて下で待たせといてくれ」「はい!藤村、出るぞ、用意しろ、直ぐ出
 る」 利尻島である。光一は行った事もない、しかし北海道の一番北、稚内の
 隣に有る島だと言う事は容易に想像がついた。
 「今から行くのですか?」 嘘だろう、なんで、そんな所へ、信じたく無かった
 ので自然と口からでてしまっていた。
 悲しい、「志乃が明日休みだから、カルチェラ連れてってと言ってたのに」
 カルチェラとは正式名カルチェラタンと言う。当時は「ディスコ」が全盛の時代
 であり、映画では「サタディーナイトフィーバー」などが流行し、みんなが同じ
 ステップを踏んで踊っていた、しかしカルチェラはそんな事をしている「ひよこ」
 には到底、足を踏み入れる事の出来ない聖地である。なぜなら、そこは
 ソール・トレインに出てくるようなフリーダンスのプロがたむろする店なのだ。
 そんな所に志乃が連れてってと言ったのには訳がある。なんと光一はそのこ
 ろやっていた全国ディスコ大会(年末の12月30日に生放送)、北海道地区予
 選で二位となり北海道放送でTVに出ていた。その時の光一の踊りの場面を
 偶然見ており、、光一がどんなダンスをした人物か覚えていたのである。
 だから光一が誘ったのではなく、志乃からデートを申し込まれていたのだ。
 ミカドに働いてはいたが26歳である(会った時は27〜30歳位と思ったが)
 ここらでちょっと20数年前の状況を書いておくことにする。
 当時の営業部長と言う役職は神様みたいな存在で用事であれば仕事、私用
 何であろうと、下に命令でき、立会いが終わると、ちょっと出てくるなどと言い
 放ち、そのまま連絡がなくとも誰も文句を言う者など無く、当然、逆らう時は辞
 める時である。
 絶対君主であり、常務、専務、社長までもが営業部長の顔色を伺い
 成績の向上を委ねる存在であった。次に次長、課長、課長代理(副長)は部長
 の親衛隊のような存在で、常に営業部長の顔色を伺い、その指示を確実に
 遂行するための存在で、その達成度合により部長の側近に成って行く。
 好かれているか、いなかは、いつしょに食事(飲みに行く)に行く頻度で判断が
 ついた、また、下の者が辞めるなどと騒ぐと、登場し、押したり、引いたりで
 やる気にさせるのが、とても長けている。
 最前線部隊は、係長、主任が課(ブロック)の長となり3〜5人の単位で行動
 する、まさに「同じ釜の飯を食う」グループだ。新規取りに行く時も、食事をする
 ときも、酒を飲む時も、出社も帰りも、とにかくいつも一緒の行動をする、当時
 土曜日は半日取引があり、3時頃にやっと別れる事になるが日曜日には課の
 長宅に呼びだされ食事をいただき、奥さんも交え大宴会となる、ゆえに、
 心の絆が自然と出来上がり、辛いとき、辞めたい、などと、なかなか言いだせ
 ない状況にもなっていた。
 上記が大雑把ながら組織の概略だ、では次に取引銘柄の紹介をしよう。
 まず、人気銘柄は輸入大豆(北海道、東京、名古屋、大阪、神戸、福岡)である、
 以下小豆、テボウ、バデン、精糖、粗糖、乾繭、生糸、綿糸と言ったもので
 今は糖価安定法で守られているが当時、粗糖の取引など殆ど無く、精糖の
 取引が盛んに行われていたのには驚くだろう、しかし花形は輸入大豆であった。

 秋山副長と畑中主任が車に乗り込む、例によって秋山が助手席である、
 なぜお偉いさんは前に乗るのだろう、不思議に思う光一だが秋山は免許を以前
 は持っていたようだった。運転に慣れていると逆に心配で後ろで寝ていられない
 そんな心配性の一人である。
 稚内に向かうルートには日本海側の浜益、増毛、留萌を経由するるルートと
 道央の滝川、旭川、和寒を通るルートがあるが、日本海ルートは道が狭く、山越え
 がかなりあり、その頃は殆ど使ってはいなかったので道央ルートで稚内へ向かう、
 どんなに頑張っても、4時間半〜5時間はかかるのである、秋山副長の話が始
 まる。
 「藤村君の親父さんはどんな仕事してるの?」「警察官です」「え、刑事か何か?」
 「はい、よく分からないのですが、今は殺人を担当しているみたいで、帰って来ても
 夜中に非常徴集とかいって出て行くことあります」「俺の親父も警察官なんだよ、
 奇遇だね、で、何人兄弟?」「腹違いの兄と姉二人で、四人兄弟です」「末っ子
 だろう?」「そうですけど、どうして、分かるのですか?」「兄弟達はみんな堅い仕事
 ついていないか?」「ちょっと違います、兄は極道で親父が戸籍から排除しています、
 姉二人は堅い仕事ですけど」「じゃ〜お前はだいぶ甘やかされたくちだな」「まあ、
 そんなところです」「俺もそのくちだよ、親父の仕事見てると、なんでそんな辛い事
 やってるんだろうと思い、サラリーマンで見返してやろうと公務員にはならなかったんだ、
 お前はどうして警官ならなかったんだ?」「なろうかな〜と、思い相談しましたが、
 即座に断られましてた、土曜、日曜、祭日ない仕事にお前がついてゆける
 はずがないと」「親父が言うのだから、間違いはないな、で、この仕事やること、
 親父さんに話したの」「はい、話しました」「で、何て」「別に何も言われませんでした」
 「あっ、そう〜、どんな仕事か分かってる?」「はい、物の価値を提供して、お客様に
 満足頂く仕事だと聞きました」「それだけ?」「あとは〜え〜、気合と根性さえ
 あれば金が稼げるし、福利厚生も優遇されており、土曜日は、はんどんで日曜は
 完全休みだと聞いています」「あまいな!」「違うんですか」「営業も警察といっしょだよ、
 何時に終わるか決まっとらんし契約あれば日曜だろうと祭日だろうと出なけ
 ればならんでしょ、そんなに甘くはないよ、根性で頑張れ!、給料だけは手取り
 北海道で五本の指に入るのは間違いない」「分かりました、やります!」「なかなか
 心強いね!入ったばかりのやつにこんな事言うのもこくだけど、僕なんかほら」
 内ポケットより辞表をだした。「男たるもの、何かあればそれなりの覚悟は決めて
 おかねばならん、いつも、いれてるのさ」「じ、辞表じゃないですか!辞めるんですか?」
 「いや、心意気だよ、君にはまだ理解できないと思うが」「なんとなく、分かる
 ような気がします」「なかなか言うね」・・・
 こんな会話をしている間畑中主任は鼾(鼻を干すと書いて、いびき)をかいて、
 熟睡をしている、それをちらりと見て秋山が続ける「藤村君、あれを見ろ、営業は
 あんなもんよ、何も考えず、命いっぱい仕事して、遊ぶ、旨い物を食って、寝る、
 哲学なんてもんは、男としての生き方、位しかないかもしれないよ!」「憧れますが
 男らしく生きるのは」「あっ、そう、君、女好きなの?」「はい、大好きですが」「今度
 いい店連れてくから、すぐ辞めるんじゃないよ」「辞表だけは書いときます」「んん・・」
 
 途中昼食をおごっていただきながらゆっくり走り3時位に稚内港に到着した、ここ
 から1時間20分、出発時間まで待ち時間があり目的の利尻に着いたのな6時前
 だった、息つく暇もなく、鬼脇へ向かう、このころには畑中主任もすっきりとしており
 水を得た魚のように、元気になっていた。
 「藤村、秋山副長に、いじめられなかったか?」「いいえ」「本人目の前にして、云う
 のも、なんだけど、副長は、新人を脅かすのが趣味だからな、お前も何か言われたろう」
 「いいえ」「辞表は見せられなかったか?」「拝見しましたが」「また、やってるんですか、
 副長!」「え、ま・・・ほら、男の生き方をちょっとね・・・」「気にすんなよ、
 副長はいつも、そんなこと言ってるから」「このお方は相場はこの会社で一番うまい
 方なのだが、どこまでが本当なのか、さっぱり分からないんだから、そうですよね!
 副長!」「ん〜難しいね〜人間は、うそを云う生きものだからね、なんとも分からん」
 真剣に会話していた光一は、みごとに、おちょくられていたのである、相手の言動
 動作などを観察してたのしむ人物だったのだ。そして相場にのめり込むきっかけ
 となった人物である・・・つづく
 お客様の前に到着した、看板を見ると小林豆腐店、入社したての光一には、
 なんら違和感がなかった、豆腐屋なら大豆を使うので当たり前の事だと感じたが
 豆腐屋なら札幌周辺にいっぱい、あるだろうと、疑問はあった。
 秋山副長と畑中主任が訪問し、車の中で待機し1時間半位したころ、店の玄関
 から、奥さんらしき人が現れ、車の窓をノックする、窓を開けると、「中に入んなさい
 お腹減ったでしょう」とやさしそうな声で誘われた、「上司が仕事最中だと思いますので」
 と断ると、以外な言葉が返ってきた。「仕事なんか、してないよ、もう、みんな
 でお酒飲んでるから、はやく入んなさい」「え、そうなんですか、でも上司の了解も
 頂いてないですし」「そんなの心配するんじゃない、内の人が呼んで来いと言ったら
 あの人たちも、よろしくお願いしますって、しゃべってたから、さあ、おいで、おそいし、
 なんかたべなさい」その言葉に安心して中に入ると、秋山副長がほろ酔いした
 顔を向けた「おお〜藤村君、来たか、今ご主人と意気投合して、一献交わそうと
 誘われ、頂いていたところだよ、藤村君もお言葉に甘えさせて頂き、ご馳走になり
 なさい」声の感じ、酔ってることが伺える、ご主人も座りなさいとほどこす、畑中主任
 も頷いているので、隣に座った。
 いきなり、先ほど迎えに来た奥さんが日本酒、「北の誉」の酒瓶を片手にグラス
 を持ってきて、光一の前に置きなみなみとついだ。「今、なんか、おいしい物、
 作ってやるからそれまで、飲んでなさい」とのことである、車を運転している者に対し
 酒を勧める、交通事故死トップの所以である、夜になると北海道の田舎ともなれば
 道を歩いてる人に会うのは至難の業なのだ、飲みすぎで自身による単独事故か、
 スピードの出しすぎでハンドル操作の誤りによることが多い。
 光一は、親父譲りで酒は高校時代より嗜み、好物である、先ほど注がれた酒など
 殆ど、いっきに飲み干した、それをみた豆腐屋の主人がまた注ぐ「若い衆、なかな
 かの飲みっぷりだねな、もっと飲めや、ところで秋山さん、話はよく分かったから
 秋山さんを信じるとして、下がったらどうするべ?親戚が帯広にいるから、天候
 悪くて、出来悪いと〜言ってたけど、相場は生き物だべ、秋山さんの考えどうり
 動かないのも、こんな商売やってたら、分かってんだ〜、つい下手に知ってるから
 畑中さんの熱心さに、負けちまったべ、下げたら、金いるんだべ、どの位考えてた
 らいいのいさ、親から相場はやるなよと言われてたのに、まったく、畑中さんは
 うまいな〜」 「損計算が投資金の半分になったら、やめるか、追証という追加の
 資金を入れて頂きます、社長には1000万位考えておいて欲しいですが」「ちょっと
 待てや、なんで160万の金の他に、1000万も必要なのよ?釜戸かいすべ〜よ」
 秋山副長「だって、社長、さっき、言ったでしょう、秋山さんの考えどうりにならない
 かもしれないと、私が相場はずしまくったら、その位、考えておいてもらったほうが
 心臓発作で倒れられなくて済む」「そんなんなら、やめるべや、この話よ」「だめです
 男、一旦、言った事、覆しちゃいかんでしょー」「んだけど、かかあに、なんて言うのよ」
 「そんな事、言う必要ないでしょう、1000万位無くなっても、今まで一生懸命
 やってきてんだから、文句いわんでしょう、なんともないですよ?その位なら」「ん・・・
 今の話、かかあに、喋るなよ!できるだけ500万位いまででで儲けさせてくれや」
 「分かりました、500万ね、だけど社長、最悪1000万は考えといてください!」
 「考えない、1000万儲かる事なら考えるさ、ま〜いい、これから取引する人間に
 そんな事、言うくらいだから、あんた、いい人だべ、ま飲むべや」
 その後奥さんが料理の支度を終え、この宴に加わり、深夜にまで及んだ。
 豆腐屋の社長が旅館を紹介してくれ、旅館の主人が迎えに来てくれた、営業車は
 そんまま残し、部屋に着いたのは1時を過ぎていた、寝る前に一言、秋山副長が
 言った、「この社長は明日、500万預かって帰ることになるからよかったな、畑中君」
 朝になり、旅館の主人が7時頃、電話だと起こしにやってきた、本社の古田部長
 から電話入ってる、とのことだ、伝言を聞き光一が秋山を揺すり伝えたが、寝ぼけ眼
 で、返ってきた言葉は驚くものである「だめだったと、言っとけ、俺はと聞かれたら
 糞してるとでも言え」「畑中主任はどうするのです?」「風呂入ってると、いやいいじゃ
 ないか」「わかりました」言われるまま、古田に伝えると電話口で怒鳴り始めた「糞し
 てるなら、すぐ呼んで来い、風呂なら、すぐ出ろと言わんか、etc 部長職が電話して
 るのに、出てこないで寝てるとはふざけた奴らだ! で、藤村、いくらで決まってる?
 あいつらは、決まると横柄なのはわかっとる」「・・・・き、決まってません」「嘘言うと
 クビだよ、藤村、俺の方が上なのよ」「決まってないみたいです」「だったら、叩き起して、
 電話するように、すぐ、伝えなさい!ガチャ、ツツツ・・」迷ったが現場優先と考え
 嘘をついてしまった、部屋に帰り、秋山に全てを話すと、寝る前と同じように一言だ
 け言われた「嘘言うと、部長、めちゃめちゃ怒る人なのよ」・・・・どうすりゃいいの
 30分もすると旅館の主人がやってきて、食事の用意が出来た事を告げる、もさ
 もさになった頭で秋山副長と畑中主任が「めし」は食うぞと言わんばかりに飛び起き
 食堂へ三人で下りたると、さすが漁師町、朝一番にもかかわらず30cmはあろうか
 という「きんき」と「ほっけ」の刺身、小鉢には近くで取れるのであろう、野草の天ぷらや
 お浸しがならんでいた。(ほっけの刺身は産地でしか味わうことが出来ないだろう
 夏場は虫が入るので三枚におろし、大きな「こんぶ」を水で洗い堅いうちから身に
 のせて、こぶじめにして食す)
 主人が自ら味噌汁を持ってきて、ぽっりと話す「豆腐屋、相場やるのか?」秋山副長
 「いいえ、何の話ですか?」「嘘ゆ〜な!豆腐屋のおっかぁから聞いたんだ、100
 万位なら、俺もやってみて〜から。うちのおっかぁはうるさいから、あとで電話けれ、」
 「そうですか、じゃ〜10時位どうですか?」「午前中はだめだ、2時ぐらいならいい」
 「五色沼の入り口で待っててくれや」「分かりました」約束をするとなにごとも無かった
 ように、そそくさと厨房に帰っていった。秋山副長と畑中主任は主人の姿が見えなく
 なったのを確認し、目で合図し、味噌汁を飲みながら微笑んでいた、それを見て
 光一が思わず、「よかったですね!畑中主任」と声を出す、畑中が「何がだ!藤村君、
 食べてる時は静かにしなさい、語るな!」と一言、渇を入れた。意味に気づかず
 光一が迂闊にも続けそうになるのを察し、畑中が肩を寄せてきて、耳元で「奥さんに
 聞こえたらまずいから、余計なこと喋るな」ドライバーで来ているが、ついつい喜びと
 感動で出てしまった言動である事を理解していたようだ。
 食事を終え、身支度をし、豆腐屋の主人と9時に約束している、拓銀(たくぎん)
 利尻出張所、駐車場へ向かう、約束の場所は店舗に、につかわぬ広さで店構えの
 3倍はあろうかと思われる所であり、そこへは主人が昨夜、置きっぱなしにした、
 営業車で待っていた。
 主人「ここで待っててくれ、160万でよかったな」秋山「500万です」「冗談、喋るなや」
 中に入って20分しても出てこない、秋山の指示が畑中に出る、「このカードで
 1000円おろして来い、暗証番号は*#*#」「分かりました」車を降りようとする
 畑中の背を見て「お前本当に千円だけしかおろすんじゃないだろうな」「そのつもり
 ですが」「お前、なんぼなんでも背広着た大人が千円じゃ、怪しまれるだろう、10万
 にしなさい」「了解です」畑中が居なくなった車の中で秋山が語る「この10万で明日は
 三人で遊びますよ、藤村君。勘定は古田部長になんとかしてもらうから」「なんとかっ
 て、どうするのですか?」「ん〜、どうにでもなるのよ、その位の金は、君も偉くなれば
 そうなるように、なるんだから」「?・・・・・」程なくして主人と畑中が一緒に出てくる。
 主人が笑いながら、こちらに向かい手を振りながら近づいてきた。
 車に乗り込み、厚さ7〜8cmの封筒を秋山に渡す。「うちのおっかぁが支店長に
 相場するんで、幾ら下ろしたか連絡くれと電話してんのよ、それで支店長に金額は
 160万だって言っとけ、と喋ってたのよ」「160万て?」「おめえ、500って言ったから
 ややっこしい事になってたのよ、支店長はおれの同級生だから、程ほどにしとけと
 言ってたけど、世間話もしなきゃなんねいべや」「あ、500ね」「畑中さんが様子見に
 来たんで、支店長、気つかって、合図するから、出てきたのよ、これ以上、出さんぞ」
 「ばれました」「当たり前だべ、この島で背広着ている者ったら、銀行位しかないべや
 金貸しでも着てねえ」「そうですか、それは失礼いたしました、じゃ勘定しませんよ、
 社長と支店長信じて500万ね」「当たり前だべ、倍にしてくれれば、100万位、やる
 から心配するな」「社長には倍じゃなくて5倍位ににしてかえしますからね」「期待しね
 いで待ってる、5倍か・・・・」  ・・・・・まだ会社に電話する様子は二人には全く無かった、
 怒られるのを心配しているのは藤村光一、一人であり、三人は別れ際、何度も
 握手を交わしていた
 集金を9時半過ぎに終え、旅館の主人と約束の時間まではかなりあり、秋山の提案で
 島内観光をして時間をつぶした。
 2時10分位前に現場の立て札の前に到着し、待っこと20分、白いバンがやって来た
 車の横には「鶴屋旅館」と書いてあるので間違いないのだが、主人の他にもう一人、
 背広姿の男が同乗していた、畑中主任が秋山副長に独り言のようにつぶやいた、
 「まずいな、あれ、さつきの支店長ですよ」「たくぎんのか?」「そうです、何かあった
 のかな〜」「来た以上、しょうがないじゃないか、当たって砕けろですよ!」そう言い
 放つと秋山は勢いよく助手席のドアを開け、やって来た車に近づく、畑中も後に続く
 秋山「社長、先ほどはどうも」主人「悪かったね、帰るの遅くなっちゃうかな」「い〜や
 仕事ですから、ところで、そちらの方は?」「あ〜たくぎんの支店長さんさ、俺の先輩
 なんだ、金下ろしに行ったら、おめ〜何に使うんだって、話になって、相場やる話、した
 のよ、そしたら、俺も一緒に行くと、いう事になったのさ、松永さんだ」松永支店長
 「松永です、よろしく」「秋山と申します、どうぞ宜しくお願いします」「私がいても、おか
 まいなく、話を進めてください、ちょっと興味があったんで、連れてきてもらってんです
 横槍いれる、つもりはありませんから」旅館屋の主人はせっかちな性格で話をする前
 に100万の入った銀行の封筒を渡し、「なんぼ位、儲けさせてくれるのよ」と結論を
 急ぐ、あまり長い時間、旅館に帰らないと女房が怪しむと、損してもこの金だけと告げ
 契約書にサインを済ませる、その間わずか15分位であった、全て記入し終わり、
 最後に「これ、無くなったら、やめるからな、利尻では株もできねーし、競馬やるった
 って、稚内のや〜さんに頼んで呑んでもらうしかねーのよ、使う所ねーから、たまには
 遊んでみてーのよ」と言い放ち商談が成立した。車のボンネットを机代わりに外で
 会話しているので、光一にも良く聞こえた。また豆腐屋の主人と同じように握手を重ね
 松永支店長とも握手を交わし営業車に戻ってきた。
 秋山「おい、畑中、あの支店長に後で電話してみろ、きっと、あの人やりますよ、
 じゃなきゃ、わざわざ付いて来て、後輩が相場するのに、なにも言わず、見てるだけ
 の人なんかいませんよ」「やりますかね?なんか、いやな感じしますが」「大丈夫ですよ
 俺を信じなさい」
 港に移動し、おみやげ屋兼食堂で「つぶ焼き」など海の幸を食べ3時半まで時間を
 過ごした。「よ〜し、畑中、支店長に電話しろ!その前に藤村君、古田部長に電話
 してくれるかね」「勘弁してください」「だめだ、部長が電話にでたら、すぐに、豆腐屋
 で500万、旅館のおやじで100万、たくぎんの支店長に300万の資金を預かり、
 今、秋山と畑中が取り込んでいるので、私が電話しましたと、言いなさい!」話終わる
 前にズボンのポケットをまさぐり、小銭を藤村に渡しながらの会話である。
 居ないで欲しいと願いながら、恐る恐る会社に電話すると無常にも今や遅しと、
 間断いれず古田がでる「おー藤村君か・・(ちょいと無言)・・それで?・・今頃どうしたの
 かね?秋山と畑中はどうしたのかね・・・・」手にひゃ汗をかきながら秋山に言われた
 とうりに伝言を告げた、すると古田が「そーか、そんなに金預かっているのか〜じゃ〜
 俺からも伝言をやつらに伝えてくれるかね・・・・金は明日、朝一番で振り込んで、
 二度と帰ってこなくていいから、旭川支店にでも出社しろと!ガシャ・・ツ・・ツ・・ツ・・」
 予想した展開ではあったが、眩暈がした。・・今度は古田に言われたとおりの事を
 秋山と畑中に告げる。二人は藤村をよそに顔を見合わせ、へらへらするだけであった
 なぜ、入社したての私がこんなに嫌な思いをするのだろう。そう考えるのは
 藤村ただ一人であった・・・・・・・
4/14
 畑中「今度は私が電話しますが、なんと言います?」「ん・・船の時間までまだ時間
 あるので、ご挨拶させて頂きたいと、さりげなく話しなさい」「わかりました」なんの躊躇
 もなく公衆電話に向かい、数分すると、にこにこしながら畑中が戻って来た。
 「OKでした、今すぐなら、あまり時間ないけど30分位いいですよと、言われました」
 よ〜し、乗ったな、行きますよ、君達!まだ腹に数の子がぎっしり詰まった、「にしん」
 が残っている、藤村は数の子の部分を箸で引っこ抜き、丸ごと口に入れ、出口を振り
 返ると、秋山がレジの前で土産やのおばちゃんに「領収書」を切って貰っていた、
 横を通り過ぎる瞬間、「金額は入れないで」と言うかすかに聞こえた。

 ほんの5分で銀行の駐車場に着く、畑中が降りようとするのを制止し、秋山「畑中、
 君は話が長い、船の時間には間に合わないし、藤村が支店長に金を預かっていると
 うその報告をしちゃっている、ここは私に任せなさい」そう言い残し秋山はさっさと車を
 降り、銀行の裏口に消えてしまった、4時ちょっと前に入り、出てきたのが40分位後
 である、裏口のところで松永支店長と、例の如く握手している。終わると、支店長が
 こちらの方を見て手を振っている、何かを察したのか、畑中はさっと車を降り、支店長
 にお辞儀をした。

 秋山が車に戻り話し出す「早く車を出せ、豆腐屋の女将が来るから!」言われるまま
 港に向かい走り出す車の中で畑中が口をきる「どうでした」「350預かった」「本当です
 か?」「失礼だね、君達、僕はハワイに住んでいた事のある副長ですよ」 なんとも
 胡散臭い話ではあるが実際に秋山は英語で書かれたライセンスらしきものを見せ
 られているので、重い言葉である。「日本人はすぐ、疑う、良くない事ですよ」「分かり
 ました、でも、どうやって預かったんですか?」「それは企業秘密ですよ、そんなこと
 簡単に教えるはずないでしょう、教えたら、私の身が危ない」「そこをなんとか、教えて
 ください!」「・・・・・・」「お願いします」「・・・・じゃ〜居酒屋は畑中が出しなさいよ!」
 「簡単な事さ、挨拶して、一通り話し、その後電話を借り豆腐屋の奥さんに支店長の
 目の前で、お礼の電話をし、今支店長といっしょに銀行に居る話した、それだけだよ」
 畑中「それだけで350万も預かれないでしょう」「いや、そうでもない、後は支店長が
 ちょっと〜〜〜急な用事をいきなり思い出したみたいで、1枚幾らだと言う事になった
 それで、50枚分だと350万ですと、言っただけですよ〜〜〜」「そんな話ないですよ」
 「あるも無いも、ほら、預かってきた」「契約書も入ったんですよね?随分早かった
 ですね!」「いや、契約書はめんどうだから、作ってくれとの事だから、畑中君、君が
 書きなさい」「やっぱり、そうですか、早いと思いましたよ」
 さーみなの衆、我らを待つ、レディーの居る、都会の街に向かいますよ!

 6時10分発の最終便で稚内へ向かう、札幌に着いたのは午前3時を回っていた
 これから別れて帰ると大変なので秋山の家で雑魚寝をする事になった・・・・・・
 
 秋山の自宅はススキノから歩いて15分程度で会社まで車だと15分位のいい所に
 住んでいた、6時半、光一が起床し、秋山に声をかけた「起きてください」応答なし
 「朝ですよ」「・・・何時」「6時半すぎです」「あと3時間位寝てていいですよ、7時半に
 畑中起こして部長に電話させて・・・・」また布団をかぶり寝てしまった、眩暈がする、
 どうしたらよいのか分からず畑中を起こし電話するように言っとけと言われた事を
 伝え、光一もまた寝てしまった。

 10時少し前、今度は畑中が起きてみんなを起こす「もう起きたほううが、いいんじゃ
 ないですか?副長」「ん〜今何時だ」「10時です」「電話入れたか?」「はい7時半に
 萩中に伝言しときました」「なんて?」「昨日遅かったので、途中、旭川に泊まり、今
 会社に向かっている途中だと、言っときました」「じょうできですね、ゆっくり行こうや」
 さすが先輩!光一が寝ている間にやることは、ちゃんとやっていたのだ、抜け目が
 はない。
4/29
 秋山がむっくりとベットから裸の上半身を起こし、タバコに火を点けている、
 裸で寝るのはハワイ仕込みとの事であるが、ごあごあの頭は異文化を感じさせる
 には程遠く、飯場のおやじを感じさせていた。
 「諸君、今日は振込みだけして、遊びますよ! 男は良き仕事し、良く遊ぶ、それが
 アメリカンな生き方だ、どうかね?畑中・・」「私に異存はありません、望むところです」
 「そうか、じゅあ〜藤村、君は何か食い物をこの金で調達してきなさい」 3000円を
 渡され、言われるがまま、弁当、ジュース、調理パン、インスタントラーメン、を買い
 込み、到底、欧米の食生活とは思えぬ朝食を済ませ、12時頃に家を出た、「藤村、
 平岸へ向かえ、振込み終わったら、パチンコでもしよう」言われるまま、札幌市内とは
 反対の方向(札幌オリンピックの際スケート競技が行なわれた、真駒内の方向である)
 へ車を走らせ、北海道拓殖銀行で900万を振り込み、秋山の指定いする、パチンコ屋の
 駐車上に到着した。「おい、畑中君、君、藤村に一万円あげなさい」「副長、どうしして、
 私が、藤村に一万出さなければいけないのでしょう」「うん・・・一つ、ギャンブラーは
 勝負前に金は出してはならない、二つ、今夜君の出した金より、僕のだす金が多くなる、
 三つ、契約は、ほとんど私がし、君には加給金が入る、四つ、買い増しをかけるので、
 その加給金が更に増える、五つ、藤村には金がない、六つ・・」 「もういいです、
 私、出しますから、でも私達はギャンブラーじゃないんですか?そこのところだけ、
 納得がいかないのですが、いいですよ、ほら藤村、釣りはいらない、とっとけ」 ありが
 たい軍資金を得て、勝負の世界の入り口を叩く。
 ちょっとcoffeeタイム
 当時のパチンコの主流は現在のフィーバーなどは違い、なんとも地道なものである。
 二次大戦が終わり、35〜6年になるが「はねもの」が主流であり、中央にゼロ戦が
 あり、両脇にあるチャッカーに入賞するとゼロ戦の羽が開き、その羽が開いた瞬間に
 今で言うワープゾーンにはいる。その玉が障害を乗り越え、中央にある、Vゾーンに
 更に入賞すると羽が15回開くという物だ、時間短縮などの機能は全く無く、如何に
 羽が開く台を選ぶかが勝負であり、釘の見分けが重要であった。勿論、モーニング
 設定などできるしろものではない。なんとも、なつかしいな〜

 秋山も畑中も一応釘を見ているようだが、2〜3台見て直ぐ座り、打ち出した、藤村
 は何も考える様子も無く台を決め打ち始めた、1時より打ち始め5時に秋山の号令で
 勝負をやめた、結果は想像するとおりで、一番が藤村、二番が畑中、金の無い者に
 神は天分を与えているようだ、畑中は藤村に出した一万円を回収し、藤村には更に
 二万円が加算され、元で無しで三万円が手元に残った。
 「さあー飯食って、ミカドに遊びに行きますよ!諸君!古田部長が居ると思うが、
 万が一、会ったら、今札幌に着いて遊びに来たと言いなさい」ちょっと電話してくるから
 そういい残し、公衆電話に向かう秋山であった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「うっ、うっ、嘘だろう、し、し、志乃に会える」 ホテル代はOKだ・・・・・・・・・・・・・
5/5
 何を食べたいという事になり、寿司と焼肉(ジンギスカン)に別れたが光一の意見
 が採用され焼肉に決定した。

ちょっとcoffeeタイム
 北海道の焼肉はジンギスカンと知っている方は旅行へ行った事のあるひとだろうか
 北海道ツアーでは、かに、ラーメン、ジンギスカンが付き物であろう、札幌に宿泊の
 おりには札幌ビール苑に良く行くようだが、北海道人にとって店に食べに行くとなると
 松尾ジンギスカンが定番である、小さな田舎町の焼肉屋にも「松尾ジンギスカン」の
 看板が掲げられているほどブランドになっている。入店するとジンギスカン何人前と
 ホルモン何人前と言った感じで、注文はいたってシンプルである、(本州のように
 メニューをみて選ぶようなものではなく、せいぜい、ラムかマトンで上か普通位なもの)
 またジンギスカンの肉がラム(子羊)かマトン(生後2年以上の大きい羊)であると
 言う事は以外と知らない人が多い。あと、鍋がなぜあのような形をしているのか?
 今は亡き母の話だが、古代、中国大陸を支配していたチンギスハーン達が野戦の
 時、敵兵士が被っていたヘルメットを火の上に置きそこで肉を焼き食したのが始まり
 と語っていたが、遊牧民と言う事を考えると、当たらずとも遠からずであろう、しかし
 そのような古代の事がなぜ北海道だけに伝わり、本州には伝わらなかったのか?
 疑問は残る。
 冬の「しばれる」夜にはホルモンもいい、熱めの日本酒と頂くと寒い中で暮らしている
 「体」に勇気を与えてくれる。

 腹いっぱいのラムとホルモンを頂き、いよいよ、秋山の「そろそろ行こうか」の言葉
 が発せられた。
 「その前にもう一度、君達に、言っておく、古田部長と合流するので、札幌に着いた
 のは、1時間前の五時過ぎに市内に入りジンギスカンを食べたと話をあわせること!
 ドゥ・ユー・アンダスタンドゥ・・・・藤村君、イングリッシュ勉強しなさい・・・」
 (確かに秋山は「インテリのおっさん」の雰囲気が漂っており、会話のところどころに
 英語が登場するが妙に違和感がない人物である)
 6時45分、秋山がパチンコ屋の近くで電話した時、古田に指定された場所、札劇
 (札幌劇場)に5分前に到着したが、古田はすでに来ており、あちこちと見回していた
 古田「おー 遅いじゃないの」
 秋山「約束した5分前じゃないですか」
 古田「いろいろ言っちゃいかんでしょ、上司を待たせたのだから」
 秋山「まあ〜時間より早く来ているのは事実です、行きますよ、我々のパラダイスへ」
 そう言いながら足はすでに「ミカド」へ向かっている。
 古田「畑中君、良かったな、契約3件も取れて」
 畑中「ありがとうございます、これも副長のお陰です」
 古田「で、どうだった、藤村、運転で疲れただろう、帰ってもいいんだぞ」
 光一「・・・・・大丈夫です、運転は好きですので、疲れていません」
 古田「いつ頃、着いたの?」
 秋山「1時間半位前です、みんなに飯を食わせてました」
 古田「藤村に聞いてるのに、怪しいじゃない、副長が答えるのは、本当はもっと
    前に着いて、遊んでたんじゃないのかね、別に仕事してる者は何しても、かま
    わんのだから」
 秋山「お言葉ですが、仕事をしてる、我々を疑うなんて」
 古田「みんな疲れた顔してないから、ちょっとからかっただけですよ、パチンコしてた
    のか?とは聞いてないでしょ」
7/13
 まったくするどい思考力である、12〜3分歩いて、「ミカド」に着いた、例のボーイが
 また近寄ってきた、2度目の社交場、闇の中にひときわ光を放ち、ちょうど夏の夜の
 街灯に集まる夏虫をを思い出させていた。
 
 入店し4〜5分すると、「みやび、あすか、志乃、明美」がお揃いでやってきた、
 みやび「あら、古さん、こんばんわ、秋さんはお久しぶりね、畑さんと光一「ちゃん」
 いらっしゃい、志乃は光一ちゃんの隣ね!」
 秋山「おいおい、大御所は古田部長だが今日お嬢さん達と飲めるのは畑中のお陰だ
 その次が俺、俺の隣には明美ちゃんをたのみますよ、みやちゃん。むかし恋人に
 同じ名の子がいたので気になるのよ」
 
 社交の華たちがそれぞれの横に座った、光一の隣には志乃がきた。
 初回同様また固まっている光一に、にっこりと微笑むだけで話をしてこない、
 光一は注がれたビールをいっきに飲み干し、二杯目のウイスキーも飲み終えた、
 その光景を見ていた秋山が冷やかす。
 秋山「君は入社間もないのに、いつのまに来ていたのかは知らんが、ね〜!
 古田部長! 君達、お見合いしてなさい」
 秋山の配慮がしらけたムードを一転させ古田、秋山、畑中は世間話や卑猥な話えを
 し始めた、さすが秋山副長、ハワイに住んでいただけはある、遊びなれている。

 余談になるが古田部長の卑猥談好きには聞いているほうが眩暈するほどである、
 ダンディーなはずの秋山も酒が入ると単なる「Hなおじさん」に変身し、古田・秋山の
 卑猥談の大騒ぎは社会的地位のある人物とは無縁と感じるものであった。
 のちに、秋山には「仕事するとき、遊ぶ時」徹底しなければ「たった一度の人生
 面白くない」 「華は咲き、散り行く、同じ咲くなら人を楽しませ、自分も楽しむ」など
 人生の哲学(アメリカ的思考と本人は拘るのだが)を教えこまれた。

 上三人の会話トーンもじょじょに高くなり、光一と志乃のぎこちない会話も徐々に
 滑らかになってきた。
 
 志乃「お仕事だったの?どうして電話くれなかったの?カルチェラ楽しみにしてるのに
  ・・」
 またも余談
 今も昔も同じであろうか、お水嬢さん達は若いお客のほうが安心するであろう、日頃
 のストレスを発散するために、おじさん達を送った後は衣装も変身し良く遊ぶように
 思う、若くして銀座の「ちいママ」などに抜擢されたお嬢も商売が終わった後、遊びに
 付き合うことになると、命がけである。東京でわりと年齢高めでお仕事後のお水嬢が
 集まるのはなんと言っても六本木、焼肉の瀬理名裏「レキシントン・クィーン」である
 若者向きの看板は無く、外人客がかなりいる、日本にコンサートに来た勇名な
 アーチストなどがお忍びで来るぐらいの店だ、中学生・高校生・大学生などは間違っ
 ても居ない、みなさんどうみても、「お金持ち」のようである。 余談終わり・・・・・
 
 光一「利尻まで行ってたんだ」
 志乃「・・・・どうして」
 光一「・・・・・・・・・・仕事だよ」
 志乃「・・・・・・・・・・・・・・そんなところで」
          素人のぎこちない、ありふれた会話につき中略
 こんなやりとりをしていることは三人の「社交お遊び会話」に打ち消され、聞こえる
 はずは無かった。

  翌日は「必ずカルチェラ」に連れて行くことを約束させられた頃には光一も、
 ほろ酔い気分となり自分の手に置かれた志乃の手を握り返していた。
 
7/21
  時間と共に光一はほろ酔いからハイテンションへと人格が変わった、元々
 明るい性格がパワーアップするとどうなるか、暴れたり、騒いだり、泣いたり、喧嘩
 など決してしない、ただ、おしゃべりとなるのである、それも、くちからでまかせ、
 しかし、悪気のない、誰が聞いても嘘だ〜と分かる事を真剣な顔で話すのである、
 最初は嘘だと思ったとしても、段々この人の言ってる事、本当かもしれない〜となり、
 矢継ぎ早に繰り出される言葉で、終には本当なんだ、となってしまうのである。
  え?何を話したかって?それは「秘密」
 
 楽しい時間は経つのがとにかく早い、古田部長が「そろそろ」の一言を告げた、
 地獄の番人の言葉である、名残惜しさこの上なし、一番最後に席を立ち、上司達
 が出口へ歩くのを確認し、光一も席を立つ、そうして、志乃に耳元で話がある
 そぶりをし、さりげなく頬へKISS!・・・・・・・・・・・・・・

  会計を終える部長を出口で待ち、出てきた部長にまるでやくざのように「ごちそう
 さまでした」 言い終えると、
 古田「藤村は俺と同じ方向だから、俺が連れて帰る、お前達は同じ方向だろう」
 秋山「じゃ〜我々はここで、藤村タクシー止めろ!」
 古田「いや、いい、ラーメン食っていくから」
 秋山「じゃ〜我々も・・」
 古田「いい、いい!君達は君達で食って帰ったらいいでしょう!」
 秋山「冷たいですね、分かりました、では、ここで」
 秋山、畑中と別れ、ラーメンを食べるものと信じ古田の後を歩いていると
 古田「藤村、俺の後ろを歩くな、二人の時は俺の視線の中にあるように歩け」
 光一「分かりました」付かず離れず、古田のほんの少し後ろを歩く。
 古田「あいつら、付いてきてないか、ちょっと後ろ見ろ」
 指示されたとうり、ちらりと確認。
 光一「来てません」
 古田「そうか、これから、ホルモン食うから」
 光一「ホ、ホルモンですか?」
 古田「おお〜!色々言っちゃいかんよ!君は僕の部下なんだから!みやびちゃん
    と志乃も来るから文句ないでしょ!・・みやびちゃんがどうしてもホルモン食い
    たいと言うから、しかたないのよ、それより、藤村、お前、志乃ちゃんにちゅ〜
    してたでしょ!?」
 この人の後ろには目がついているのか〜!だが、とんでもなくうれしい、まさか、
 これからまた志乃と会えるなんて!この人はとんでもなく凄い人だ。
 8/4
  10〜5分位歩いた、タクシーに乗るより、歩いた方が酔いがさめる、との事である。
 ススキノ交番の前には酔っぱらいに絡まれ、応対する、警官が二人ほどいる、
 無残にも酔いつぶれたガールフレンドの背をさすり、介抱する若いカップルもいた。
 そのような人生ドラマを尻目にススキノ第二グリーンビルに入る。
 古田「藤村、ぎょうざ食うぞ!」
 光一「ぎょうざですか!?」
 古田「色々言っちゃいかんて、言ってるでしょ、みやびちゃんと志乃ちゃん来た時、
    がっついてちゃ、情けない!男はゆったりとしていないといかんでしょ。
    店で腹減ってたのかなんて思われるのは、もってのほか」
 光一「分かりました」
 入店したのは光一が以前バイトをしていた「みよしの餃子第二グリーンビル店」
 顔なじみの店員ばかりであるが傍らの人物を察し目で挨拶。
  バイトをしていて毎日まかないで食べていたが不思議と飽きはこない、美味しい
 餃子である。(旅行に行ったおりにはぜひご賞味あれ)
 ビールを飲みながらゆっくりと15分ほどかけ平らげ、外に出る。先程通った、
 ススキノ交番の前で更に10分。向こうから二人が手を振りやって来た、みやびが
 足早に近づき「ふるさん〜」と抱きついた、志乃が後からゆっくりとやってきて
 「待った、他の人たちは?」と杓子定規な言葉を光一に投げかける。
 まさか餃子食ってたとも言えず、「いや、今来たところ」と返事を返した。

 古田「ホルモンでいいのかね」
 みやび「うん!いつもお寿司とか洋ものばっかりだから、たまにホルモンがいいの」
 古田「ホルモンとは安上がりだ」
 みやび「あら〜ふるさん、安上がりと言うと意味ありげね、下心ありの言葉よ、
    どこへ上がるのかしらね」
 古田「さすがにするどいところを衝くね」
 みやび「店は汚いけど、美味しい店しってるから、4人でお腹一杯食べても一万円
    もしないから、安心してね!そのかわりお酒飲ませてもらうわよ」
 北海道神宮がある手稲山の方角へ12〜3分ほど歩いた、ススキノの外れで
 「ここよ」みやびが指をさした、その方向に全員の視線が集中する、そこにあった
 のは、今は少なくなったが「おばけ屋敷」そのものである。
 看板は無残にも崩れ、「ホ○モ○」略すとホモである、酔っぱらいが石でも投げて
 壊した事を容易に想像させる壊れかただ。ビルの谷間にある木造鉄パン屋根。
 木とガラスで出来たドアを「ガラガラ」と開け中に入ると、ほとんど満席である、
 前歯一本しかない「じじい」が調理場ののぞき穴のような所から「そこに座れや!」
 と顔を出し、合図する、指示されたままに座ると、しばらくして頼んでもいないビール
 2本を手にし「じじい」が出てきた、「何人前」 みやび「八人前とひや四つ、味噌漬け
 二つ」 注文を終える前に返事もなく調理場に帰ってゆく「じじい」 今度は味噌漬け
 とやらを手に「こんにゃくババア」が登場してきた、たけしや志村のお笑いのような
 歩き方、一歩踏み出すごとに、壁、テーブル、お客さんにぶつかりそうな歩調である
 いっそ車椅子にでも乗って運んできてくれるほうが安心ある。にやにやしている
 光一をみやびが足で突っつく、更にその状況をみて志乃も肩を震わせていた。
  とにもかくにも、「味噌漬け」が二つ無事テーブルに置かれた。みやび以外みな
 初めての料理のようで恐る恐る口にする、国内産の味噌のようだが、豆板醤の
 ように辛く、酢の味がするホルモン漬けのようであるが、これは旨い!(ビールに
 良く合う、つまみである)
 ビールが無くなる頃、味付きのホルモンが四人前づつ「鉄板」の皿に山のように
 分けられ「じじい」が持ってきた、さすがに、ここで「こんにゃくババア」の登場では
 テーブルに置かれる前に量が半減しそうな、てんこ盛りである。
 光一は先ほど古田の言っていた「男はゆったりとしていないといかんでしょ」の言葉
 を思い浮かべる、この状況下で「ゆったりしている」なんてあったもんじゃない。
  下に水の溜まった「コンロ」で焼き、口に運んだ、「うそだろう〜!なんていい味
 なんだ!」 信じられない旨みが噛むたび染み出てくる感じである。それぞれ
 店に対する驚きから美味しさに対する驚きに変わっていた。

 古田「藤村、俺の焼いてたやつ取っちゃいかんでしょ」
 藤村「すいません、気がつかなかったもので、これ焼けてますよ」
 古田「今、藤村が食ったやつが旨そうだったでしょうが」
 藤村「あまり焼けてなかったみたいです」
 古田「お〜お、色々言っちゃいかんよ」
 このような会話が続く・・・・・・・・・・

 餃子を食べた事も忘れ「ゆったり」どころか「合戦の修羅場」で女、男、上司、部下
 はなんのその、美味しいものを食べる時は少年、少女であった。
 用意された「てんこ盛り」の皿をきれいに平らげ、食の幸せを感じ一息ついたところで 
 みやびが提案する「この後、ふるさんちに行って呑みなおそうよ、疲れたら、すぐ
 寝れるし、いいでしょ、志乃!ふるさん、単身だから大丈夫なのよ、それに他で
 呑むとお金かかるから」
 志乃「いいですよ、おじゃまでなければ」
 みやびさん!あんたは偉〜い!できた人物!女神!光一はホルモンで一杯になった
 腹のなかで、思い、瞬時に方向性をイメージしていた・・・・・・・・・・
 
 8/24
  今度はさすがに歩くことはなく、すんなりタクシー乗った、ススキノから10〜2分の
 所で降りた、真新しいマンションの4Fに案内された。
 (家具はテレビ・たんす・冷蔵庫・ちゃぶ台・電話、それ以外何も無い、そのせいか
 話し声が劇場のように反響するきがする所だった)
 玄関を開けるやいなや、みやびが一番にあがりこんだ。
 
 みやび「相変わらず、さっぱりした部屋、観葉植物でも置きなさいよ」
 古田「・・・・・」
 みやび「志乃、こうちゃん、今日は呑みましょうね、古さんアルコールあまり呑めない
      から、私達で楽しみましょう」
 古田「・・・・・」
  宴がはじまる、飲み物はジャック・ダニエル黒、つまみは、さきいか・チーズたら・
 ソーセージ・かっぱえびせん、と高校生の自宅宴会を思い出させる質素だ。
 (ジャック・ダニエル黒:20数年前は高級酒であり、12000〜5000円位した)
 時間が経つにつれ古田の下ネタが炸裂し始めた、実にリアルではあるが、相槌を
 いれるみやびの楽しそうな事、最初は困惑していた志乃や光一もかなりの勢いで
 呑んでいるせいか、かなり口数が多くなってきた。

 志乃「古さんて、どの位?」
 全員「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 古田「どの位?大きさか?長さか?」
 志乃「違う!時間よ」
 古田「時間か、そうだな〜10分か15分かな」
 みやび「古さんて、早いのよね〜」
 全員「・?・?・?」
 みやび「あら、口がすべっちゃった」
 光一「みやびさんと古田部長、やっちゃったんですか」
 古田「大きな声で言っちゃいかんでしょ!」
 光一「私達以外誰も聞いてませんよ」
 志乃「随分、短いのね、光一さんは?」
 光一「え〜〜僕ですか・・・速さだけは自信あります、インスタント・ラーメン並みに
    ただ、回数だけは、誰にも負けません」

 注:当時はカップヌードルが登場して3〜4年位でまだ種類はほとんどなかった
   2番手はカップスターだっただろうか。中に入っている肉が犬の肉だと、怪しい
   噂がながれていた。
   余談の余談:チャイニーズヘアレスドックやチャウチャウは食料用に改良されて
   きた事をご存知だろうか。

 これ以上、上記会話の続きは「当サイトの品位を著しく損なう」ので後はご想像に
 お任せします。

 時間は5時30分を回っていた、古田部長はいつの間にかごろ寝して、とんでもない
 鼾(いびき)をかいていた、
 みやび「酔っちゃったわね、寝ようか? 古さん寝るわよ!起きて!」
 寝ると言っても下手をすると遅刻する時間である、寝る事は出来ないが、横になり
 体を休めたいのは同感である。
 みやび「こうちゃん、早くふとん敷いて!押入れから二組出しなさいよ!」
  二組!4人で二組とは一つの布団に二人ではないか、嘘だろ〜。
 これは、いける・・・・・・・・・・
 
 10/2
 光一は言われるままに布団を敷いた、みやびが古田の肩を揺らし起こそうとするが
 全く反応がない、台所へ立ったみやびはグラスに水を注ぎ古田に近寄ると口に含んだ
 水を古田の口に流し込む、何事ぞと言わんばかりに、むんずと起き上がる古田と額
 がぶっかつた。
 気づいた古田はみやびを引き倒し布団にもぐりこんでしまった、非常なる早業!
 光一は志乃に自分はごろ寝するから布団に寝るよう告げた、しかし志乃は光一が
 横になりなさいと言う、スムーズにいかない。頭の中の二つの人格が選択を迫るが
 相手の事を考えるとそう簡単に狼に変身できるものではない。「なんとも純情である」
 そうこうしているうちに光一はちゃぶ台の横に崩れこむように眠りに落ちていた。
  10時頃に夢(ゾンビもので「死霊のはらわた」を見たばかりで恐ろしい夢だった)
 から覚めた光一を驚かせたのは隣に志乃が布団を掛け添い寝していたのである、
 しかも柔らかな胸が右腕に触れているほどの距離だ、古田に朝を告げようと思うが
 志乃に気づかれぬように起き上がるのは困難を極めた、動こうとした瞬間、気づいた
 志乃に腕を引かれた、振り返ると、ただ首を振り横をゆび指した、視線をその方向へ
 向けると、とんでもない光景がゾンビの夢と隣にいる志乃に瞳孔開きっぱなしの瞳に
 飛び込んできた・・・・・・・・

             御免!更新してなかったのでここまでで勘弁
                  他の更新もするでござる、また・・・・



 
徐々に更新予定